技術情報

北米における新規の細菌病害

Bacterial Decline(バクテリアデクライン)について

バクテリアデクライン

全国各地のゴルフ場から依頼されたベントグリーンの病害診断において、2013年では729件中216件、2014年は693件中216件が細菌病(複合感染を含む)と診断され、現場において細菌病が問題となっていることがうかがえます。

今回は、細菌の一種 Acidovorax avenae(褐条病菌)が関与し、近年北米で問題となっているBacterial Decline(バクテリアデクライン)について紹介します。

 

// Bacterial Decline(バクテリアデクライン)とは?

Bacterial decline(バクテリアデクライン)はクリーピングベントグラスにみられる病害で、Acidovorax avenae subsp. avenae と生理的ストレスが複合的に関与し発症します。初期症状として新葉の黄白化(etiolation)が認められ、後に組織の衰退や壊死に至ります。本病害の発現には多くの要因が関与すると考えられており、近年北米東南部(Southeast)、北東部(Northeast)および中西部(Midwest)におけるクリーピングベントグラスの管理における重要病害として注目されています。

本病害は当初、Xanthomonas translucensによる'Bacterial wilt'(細菌性萎凋病)と位置付けられ、スズメノカタビラやクリーピングベントグラスの"Toronto"品種のみが罹病すると考えられていました。 しかし、後の研究により本病害がクリーピングベントグラスにおける新しい複合病害であることが明らかとなり、新たな名称として"Bacterial decline(バクテリアデクライン)"が提案されています。引き続き本病害のより詳細な発生要因や効果的な防除方法について研究が進められているところです。

 

// 症状および発病条件

クリーピングベントグラスにおいては、通常、初期症状として直立茎の異常伸長と黄化が不定形なパッチ状に現れます。進行症状としては、小形の黄色斑点からなる褐条、大形または散在性の濃緑色水浸状病斑、あるいは小形の灰緑色水浸状病斑等が葉身上にみられ、いずれの場合でも最終的に葉身の褐変、枯死、萎凋に至ります。本病害は長期間の湿潤条件下で最も発生が激しくなります。 なお、スズメノカタビラは罹病しないと考えられています。

北米北部の気候では、一般的に夜温が約15~18℃に達する6月中下旬に黄化や徒長等の初期症状が認められます。一方、Transition Zoneのような亜熱帯性の環境では、気象パターンが温暖になり始める春に症状が発現することもあります。専門家による診断では、しばしば罹病組織からの"bacterial streaming(菌泥噴出)"の有無を調べますが、日中の温度が30℃以上になると環境ストレスのため罹病した植物が枯れ、沈み症状が顕著になります。
通常、病気が発現する場所は機械的なストレスや根の切断が起こりやすい場所です。モアやローラーによる損耗が激しい部分では、沈み症状が強く出る傾向があります。また、根の損傷が激しい箇所や、直近に張り替えを行った部分でも強い症状がでることがあります。根にAcidovorax菌が接種されると極めて短期間で徒長症状が発現することが知られています。

 

// 防除方法

Bacterial decline(バクテリアデクライン)の進行には、植物体へのストレスが重要な役割を担っています。芝が濡れている間の刈込は細菌を拡散させるだけではなく、芝にストレスを与えるため避けるべきです。 パッティンググリーンの管理では、刈高を上げ、刈取り頻度を少なくすることを検討してください。

モアの方向転換によるグリーンカラーへのダメージを防ぐためシートやマットを敷いたり、その部分への機械の侵入を制限したりするなど、機械的な摩擦が起こる箇所についてはストレスを軽減するための工夫が必要です。軽めのトップドレッシング(目砂)を頻繁に行うことは、根圏の土壌構造を改善すると同時に芝の冠部を保護するために有効です。 バーチカットのような強度のグルーミングは夏場のストレスがかかる時期は控えるべきです。

適切な灌水管理、風通しの改善、土壌排水および十分な日射の確保はいずれも植物のストレス軽減のために必要な条件です。酷暑期におけるベントグラスグリーンの生理障害による落ち込みは、送風機の設置や適切なシリンジングによって軽減することもできます。

 

// 最新の研究

最近の研究では、一部の植物成長調整剤や硫酸アンモニウムの過剰使用が徒長や沈み症状を悪化させる可能性が示唆されています。これらの管理手法に関するガイドラインは現在策定中ですが、使用にあたっては注意が必要です。

クリーピングベントグラス上の細菌密度を直接抑制することができる農薬は少なく、また、抗生物質は芝の適用を持っていません*。

ノースカロライナ州立大学とクレムソン大学が行った研究では、Chipco® Signatureの1000平方フィート当り8オンス(約2.4g/m2)処理により、沈み症状が有意に低減されました。Chipco® Signatureは芝のストレスを軽減し、ターフ密度、擦り切れ抵抗性および色調を向上させます。

過去の研究では、これにより低光条件下・高温下でも光合成量が増加することが示されています(Huang and Liu, International Turfgrass Society Research Journal, 2009)。Chipco Signatureと他剤のタンクミックスも同様に有効で、プラントヘルス効果、サマーデクラインおよび環境ストレスの軽減効果がラベルに記載されています**。

*日本においては、抗生物質の登録がありますが生産芝に限定されています。
** Chipco® Signatureは 北米における登録製剤(ホセチル80%含有)。日本における登録製剤シグネチャーWDGの登録ラベルには環境ストレスの軽減効果に関する記載はありません。

 

// 日本における「シグネチャーWDG」の登録

シグネチャーWDGの適用病害表

 

バクテリアデクライン1

 Acidovorax avenaeに感染したベントグラスグリーン上の不定形パッチにみられる黄化・徒長の初期症状。
写真:Paul Glordano, Bayer CropScience.

 

バクテリアデクライン2

芽数の減少、退色が認められたクリーピングベントグラス(Penn A-4とPenn A-1の混植)。
障害は細菌の感染に関連しており、芽数の減少に先立ちetiolation(黄化・軟白徒長化)が認められた。
写真:Dr. Derek Settle, Bayer CropScience.

 

バクテリアデクライン3

クリーピングベントグラスに見られた茎葉の異常伸長・黄化(Etiolated tiller syndrome)の拡大写真。
写真:Derek Settle, Bayer CropScience.

 

バクテリアデクライン4

罹病している組織からの細菌の菌泥噴出はAcidovaraxの診断に有用である。

 

日本における細菌病の実態、防除などについては

細菌病について