殺菌剤の呼吸阻害剤ってなに?
芝生に登録のある殺菌剤有効成分の30%を占める呼吸阻害剤について詳しくご紹介します。
酸素を利用して炭水化物をATPと呼ばれるエネルギーに変換することを「呼吸」といい、主に細胞内のミトコンドリアと呼ばれる小器官で行われます。
細胞
病原菌を含むほとんどの真核生物の細胞の中にはミトコンドリアが存在します。
ミトコンドリア
ミトコンドリアは外膜と内膜の二重膜構造になっています。外膜と内膜の間を膜間腔、内膜の内側をマトリックスといいます。
呼吸は、ミトコンドリアの外で進行する①解糖系、ミトコンドリアの内膜で囲まれたマトリックス内で進行する②クエン酸回路、内膜で進行する③電子伝達系の3つに分割されます。
そして、最終的に電子伝達系で、いわゆる生命の「エネルギー通過」といわれるATPが大量に生成されます。
// ミトコンドリアの内膜には、複合体Ⅰ(NADH脱水素酵素複合体)、複合体Ⅲ(シトクロムc還元酵素)、複合体Ⅳ(シトクロム酸化酵素複合体)の3つの酸化酵素複合体が埋め込まれています。
// この3つの複合体に電子(e−)が通るたびに、マトリックス(内膜の内側)から膜間腔(内膜と外膜の間)にプロトン(H+)が汲み出されます。
// その結果、膜間腔とマトリックスの間にH+の濃度勾配が生まれ、それを解消しようとH+がATP合成酵素内を通り抜けます。
// その際に、ATP合成酵素内のタービンが回転し、ADPをATP(エネルギー)に変換します。
// なお、複合体間の電子(e−)の伝達役を担うのが、ユビキノンやシトクロムcになります。
// 複合体Ⅱ(コハク酸脱水素酵素)は電子の伝達役であるユビキノンに電子を追加する役割を担います( H+は汲み出しません)。
引用:生命系のための理工学基礎ホームページより
https://rikei-jouhou.com/
// 電子伝達系に埋め込まれている複合体の働きを阻害することによって、病原菌の細胞内での呼吸を阻害し、エネルギーの合成を妨げることによって、病原菌の増殖を抑えます。
// SDHI剤は複合体Ⅱの働きを阻害します。
// Qoi剤は複合体ⅢのQo部位を、Qil剤は複合体ⅢのQi部位を、QoSI剤は複合体ⅢのQoS部位を阻害します。共に複合体Ⅲの働きを阻害しますが、阻害する部位が異なるため、Qoi剤、Qol剤、QoSI剤は交差しないと考えられています。
// SDHI剤:ペンフルフェン
// Qoi剤:トリフロキシストロビン
殺菌剤の作用機構を理解することは、効果的な病害防除につながります。SDHI剤とQoi剤は殺菌剤の種類も多く、農耕地では両剤が効かない複合耐性菌も報告されています。
呼吸阻害剤は防除効果の高い殺菌剤ですが、薬剤耐性のリスクが高い成分が多いため、多作用点阻害剤などとローテーションを組んで使用することをおすすめします。
こちらの記事のPDF版をダウンロードされたい方は、下記画像をクリックしてください。